則天武后
武石則子。
中学時代の同級生だ。
則天武后という活字を見たら、いきなりフラッシュバックしてきた名前。
人間の記憶ってのは、面白いもんだ。
中学生ながら、低い声をしていた。
付随して思い出したこと。
田舎ゆえ、小学校と中学校の学校区はほとんど同一で、中学の同窓生は9割がた小学校の同窓でもあった。
子供の行動範囲は歳とともに広がっていく。
小学校二年で自転車を買ってもらうまでは、遊びの範囲は町内の中までだった。
自転車は飛躍的に移動距離を伸ばし、時々は、別の町内の同級生のところまで遊びに行くようになった。
あるとき、(たぶん幼馴染の一人と)遠出をした。
記憶が曖昧で、目的も前後の事情も覚えていない。ただ、テトラポットの間で船のおもちゃを浮かべて遊んだこと、そして川の近所に住んでいる女の子が一緒にいたこと、それが覚えていることのすべて。
中学になって同じクラスになった武石嬢に、この記憶の話をした。
彼女の家が、思い出の中の川沿いだったことと、その近所にその年頃の女の子が彼女しかいないことがわかったので、あの時の女の子はキミじゃなかったのかと。
そんな記憶はないし、知らない男の子と遊ぶことはなかったという返事だった。
それだけの思い出。
記憶の抽斗に、未解決とラベルを貼って再びしまっちゃった。
則天武后から、こんなことを思い出して、読んでいた本を閉じた。
今頃どうしているのやら。