浅野真澄
あまり表に出てないが、ラジオやCD、いわゆるオーディオドラマの仕事を結構な数こなしている。
あるとき、ホラー物原作をドラマ化することになり、出来上がってきた台本をチェックしていると、登場人物の一人が歌を口ずさんでいるシーンがあった。
もちろん台本なので、歌詞だけが書いてある。
問題だった。
何が問題かと言えば、その歌詞を見て、メロディが思い浮かばないのである。
要するに、知らない歌だったのだ。
世にはJASRACという団体があるので、著作権切れでない歌モノを劇中で使うのは、余分な予算が必要になるので通常は避ける。鼻歌程度でも、使用料が発生してしまうからだ。便利な時代になったもので、インターネットで作詞作曲編曲者の名前や、JASRACの会員かどうかなどすぐに調べられる。問題の曲は唱歌で、著作権問題はクリアしていることはすぐにわかった。使っても余分な支払いをしなくて済む。
だが、メロディがわからないので、歌ってもらうことができない。
原作サイドに問い合わせたところ、誰も知らなそうな唱歌を歌ってると、そのシーンの雰囲気が出ると踏んで、わざわざそういう曲を探したとのこと。もちろん効果的なシーンになっているので、こちらもそれを再現したいと思った。
果たして、またもインターネットである。
題名がわかったので、検索すると何件がヒットした。そのうちの3箇所でメロディを聴くことができたのだ。
キャスティングされていた浅野真澄の所属事務所に電話を入れ、歌のことと、件のURLとを知らせ収録当日。浅野真澄、見事にその歌を歌ってみせた。感心した。
原作サイドも歌詞だけひろってきただけなので、メロディは知らなかった。オーディオドラマとして再現してはじめて聞くことになった。予想以上に効果的なシーンだった。
残念ながら、それ以後、彼女と仕事をする機会がない。また一緒にやってみたいと思う役者だ。